少女
喫茶店の窓越しのカウンターに座ってひとり煙草をふかすわたしを見つめながら歩いていた家族連れの少女は、いったい何を考えていたのだろう。何を思ったのだろう。わたしは少女と少し目が合ったあと、目をそらして、なるべく気にしていない様にふるまった。なるべく、風景の一部になるように。
少女はわたしという個人を見ていたのではなくって、わたしという風景を見ていたのだろう。喫茶店の窓越しのカウンターに座ってひとり煙草をふかすわたし。そのわたしは風景として存在していて、わたしがどんな人間だとか、何を考えているのかだなんて、そんなものはまったくどうでも良くって。
風景として存在していたわたしは自然で、わたしがわたしであるということは、何も必要とされてはいなくって。そんな風景が連続的に続いていく、街の中は、やっぱり素敵なものなのだということに、あらためて気づいたりして、そんなことを気づかせてくれた少女にわたしが感謝しているだなんてことを、少女はきっと想像だにしないわけであって。