せかいとことば

世界は言葉によってつくられているし世界は絶えず言葉を生み出しているし。雑多な文章をつらつらと。

あなたが起きているときにわたしは寝ている

目の前には二本の缶ビールがあった。一つはプレミアムモルツの黒で、もう一つはよなよなエールというエールタイプのビール。二本とも飲んでしまおうと思って、思ったのはよかったのだけれども、問題はどちらから先に飲むべきか、ということであった。
わたしは必死に思いを巡らせ、その問題について考えた。プレミアムモルツ黒はシュバルツタイプなので、先にこちらを飲んでガツンときた後にさらっとよなよなエールを味わう方が良いのか。それとも、先に軽やかな気分で、よなよなエールを味わい、ささやかなこの喜びもたけなわになろうとする頃にプレミアムモルツ黒をいただきほろ酔いのまま眠りに着くのが良いかしら。

それはある種、どちらであったとしても満足するであろう問題ではあった。しかし、そのどちらかを選択する前のこのわたし、にとっては、その満足加減をさも客観的に捉えられ、比較可能かのように感じてしまうのであって。きっとどちらかがより正しい選択なのだ、という脅迫に追いやられ、どちらを選択することがより好ましいのかとあれこれ比較し、迷宮に潜り込んでしまうのであった。
きっとこういうことをほとんど何も考えずに、思いつきでどちらかを選択し、そして満足するという人間は少なくないのだろうと思う。それは、とても正しい態度と言えるかもしれない。そして、どちらであっても満足するような、大して変わりもしないことをあれこれと悩むのは、なんていうか貧乏くさいことなのかもしれない。

そういう意味でのある種の大胆さ、というのはそれはそれで効率のよいものだと言えるであろう。しかし、私のような人間は、その不毛とも思える問いに真剣になってしまうのであって、全身全霊を捧げているのだ。そういう問いを突き詰めることにこそ、本質があるのかもしれないのであって、そうこう思いを巡らせるうちに飲むプレミアムモルツの黒は、とてもとても美味しい。